ひのりごと 48

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元クリオシティのパパスが遊びに来てくれた。

普段、自分の犬小屋の周りをうろちょろしたり、庭に来る鳥にちょっかい出したり、昼寝したり、小さな半径をそれなりに楽しんでいる犬が、飼い主が帰ってくると突然思い出したようにうれしくて興奮する。
遠くの友人が遊びに来るって、そういう気分だ。
本当言うと、やって来る数日前からうきうきが止まらなかった。荷物やスケジュールの件で電話した時に、久しぶりの会話が楽しくて思わず近況を全部話してしまいそうだったのを、もったいないので会ってからにということで電話を切ったりもした。

パパスがやってきた当日、私は仕事だったので、朝駅まで迎えに行き、小さなメモを渡して私の職場で合流することにした。メモには私のオススメのお店をいくつかピックアップして書いておいた。メモしたのは店名だけで住所等は一切書かなかった。元メッセンジャーなら検索して効率の良い周り方を自分で見つけてくれるだろうという安心感から。デリバリーの指示書、”マニフェスト”の様なメモだった。
午後、私の職場のお店に登場したパパスは私のマニフェストを完璧にこなしてやってきた。オススメのお店とお店の間に自分で見つけた美味しいお店を挟む完璧ぶり。流石だ。

夕方から足慣らしの為に近くのゲレンデのナイターへと向かった。今回、パパスは八甲田でのバックカントリーを楽しむ為にやってきたのだ。
ゲレンデへ向かう車中でクリオシティ時代の懐かしい話をたくさんした。私のクリオシティ時代は2009年のCMWC開催に向けて没頭していたので、所々記憶が曖昧だった。それをパパスが補う様に色々話してくれた。突然蘇ってくる様々な思い出に笑ったり、苦笑いしたり。頭の中がどかどかと降り落ちてくる濃い思い出を受け止めるのに忙しかった。

二日目からは八甲田に入った。
パパスは思う存分この奥深いフィールドを楽しんでいた。私はバックカントリーで滑った事が無いのに自慢気だった。「いいでしょ、いいでしょ、青森、八甲田。」という感じで。
今、偶然にもパパスと私は同じ業界で働いている。山に携わるその職種。今回、私は同業者のパパスにこの青森が刺激になればいいなと勝手に思っていた。今自分がいる環境やその楽しみ方が新たな刺激になればいいなと勝手に思っていたのだけど、結局刺激をもらったのは私だった。様々な知識がたっぷりとしっかりと蓄えられたパパスの山の話はすごく面白くて興味深かった。2009年頃にクリオシティに入ってきたあの頃のパパスよ…。人の変遷て面白い。

一方、先輩として刺激を与える予定だった私は、ガチガチのアイスバーンのナイターで暴走し、楽しいお酒を思い切り楽しんで人の優しさを知り、得意気に運転していた車でオーバルスキッドを決めて雪壁に受け止めてもらうという、ある意味本物の刺激を与えられたと思われる。そして相変わらず愛らしい先輩ぶりを発揮できたと思われ…。

それぞれの場所で、それぞれ楽しんで、仕事して、ふと思い出した時にフットワーク軽く遊びに来てくれる、そんなメッセンジャーな関係がやっぱり良いなと思った数日間。
楽しすぎた。
青森も私も、もっといいところ見せたいから早くまた来てね。

ひのりごと 47

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昨夜の晩ごはんは”丸ごとゆでにんじん”。皮ごと茹でたものをレシピの通り、フォークで崩しながら塩とバターをつけながら食べた。
にんじんは、ある元女性メッセンジャーからいただいたものだ。

メッセンジャーは荷物を早く効率良く届ける為に、ディスパッチャー(配車係)の指示で同じ会社のメッセンジャーと交差点やビルの下で待ち合わせて荷物の受け渡しをすることがある。
大手のメッセンジャー会社に所属していた頃は、無線上で声は知っているけど未だ会ったことのないメッセンジャーと待ち合わせすることも多かった。それ位たくさんのメッセンジャーが同じ会社に所属していた。
全ての人が先輩に当たる新人の頃は、先輩を待たせてはいけないという緊張感と、待ち合わせ場所となるビルの出口や交差点の四角のどこで待つかを間違えないようにという緊張を抱えながら毎回必死に待ち合わせ場所に向かっていた。
待ち合わせ場所に現れるメッセンジャーは、無線の声のイメージのままの人、荷物と一緒に必ず飴をくれる人、無線の勢いのある声とは裏腹に走りきって疲れた顔で登場する人、色々な人がいた。

にんじんをくれた元女性メッセンジャーとは市内のゲレンデの駐車場で待ち合わせをした。
あることがきっかけで、同じ市内に前述の大手のメッセンジャー会社に所属していた女性が住んでいることが分かり、連絡を取り合って会うことになったのだ。しかも、私が今夢中のスキーを教えてくれるということで、この場所での待ち合わせ。入れ替わりで入社しているので現役時代には会ったことがない。初対面がゲレンデってバブルの頃の映画みたいだ。

重なるたくさんの偶然に興奮はしたけど、待ち合わせに緊張はしなかった。
もうお互いメッセンジャーではないから急いで届ける荷物も無いし、怒るディスパッチャーもいない。元メッセンジャーというだけで、いい意味で肩に力も入らない。
車にスキーを積んで現れた女性は想像通りの方だった。
スキーもして、山も登って、話を聞くほど楽しい出会いだということが分かる。
メッセンジャーという職業を選び、山に向かい、この地を選び、スキーで遊び、偶然といえば偶然だけど、何だかどこかで納得できる気がした。そういう風にできてるんだなという感じで。

いただいたにんじんはアドバイス通りそのままシンプルに食べて正解だった。
スキー気分の盛り上がりで買ったユーミンの中古のCDを聴きながら、残っていたワインと一緒に食べる濃いオレンジ色のにんじん。食べながら元クリオシティのメッセンジャーとメールのやりとりをしていた。来週、はるばる横浜から遊びに来てくれる。すごく楽しみだ。自分が選択した今の生活の中にあるこの土地と遊びをそのままシンプルに味わってもらいたい。そういう案内をしたい。そのままでも、私にとっては濃い生活を。

ひのりごと 46

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今、スキーに夢中だ。
先日、仕事の関係上、スキーについて学ぶ機会があった。スキーの中でも山スキー、更にはテレマークというスキーの話にぐっと惹きつけられてしまった。私はスキーに馴染みがない。三十数年一度も経験することなく過ごしてきた。そんな私も、せっかく北国に来たのだからスキーはやりたいと思っていた矢先の研修だった。
スキーの始まりから今に至るまでの話、テレマークの成り立ち、テレマーカーの振る舞いを、”好き”という気持ちを根底に語られる研修は、仕事でありながらドキドキした。
スキー場でザックを背負って滑るテレマーカーは、お互い妙な親近感が湧くらしい。
それって、街で大きなバッグを背負った者同士が抱く親近感と似ている…。もう、この時点でぐぐっときてしまった。
マイノリティ(少数派)、カウンターカルチャー、メッセンジャーカルチャー。固定ギアの自転車のブームがピークにあった頃はそんな言葉にも、天邪鬼な気持ちで”なんだかなぁ”と思っていた。でもそんな時代もとうに過ぎて、”自転車”をそれぞれの嗜好でより自由に楽しむ人が周りに増え、私も程よく歳を重ね、そういうことの良さを素直に感じられるようになってきた。やっと。

敢えて身体に負荷のかかる道具で移動する、荷物を運ぶ、それを仕事にする。それを仕事に選ぶ時点である種の変わり者。物好きだ。
そんなところから始まる共有意識、共感は同じ都市を走る同業者、地方都市、そして世界に広がっていた。
知らない街に行って、同業者を見かけてなんの迷いもなく話しかけられるってなかなかないこと。話しかけるというより、思わず声を発する感覚。
そんな世界がスキーの中にあるということが驚きだった。
やってみたい!
とはいっても、知っている人は分かると思うが、テレマークはとても難しい。踵がフリーになるビンディングで斜面を滑り降りるのだ。(私が今できる最大限の説明。)スキー未経験の私には絶対に無理。絶対。
ということで、ゲレンデでアルペンスキーの練習から始めることにした。道具は周りの心優しい人が使っていないものを提供してくれた。この土地の人達はこの土地を楽しもうという気持ちにとても優しくて親切。
ゲレンデに5回行った。成長のペースは予想通り。でも楽しくてしょうがない。ゲレンデを滑る感覚を身体に残しながら運転する帰路。頭の中はドリフト状態。で、安全運転。メッセンジャーを始めたばかりの頃はその日一日の仕事をもう一度頭の中で繰り返しながら帰っていた。あの瞬間の荷物のピックからのあそこでのパス。良い瞬間を思い出しながら走る帰り道。メッセンジャーはナルシストな職業。

今の目標は来シーズン中に夏に歩いた山にスキーで入ること。それができたら、テレマークの練習の始まり、かな。
できるか分からないけど、とにかくやってみたいという気持ちもメッセンジャーを始めた時と一緒。
恋に落ちやすい性分は変わらない。

そんな中で最近はっとするような出来事があったのだけど、それはまたの機会に。
これからメッセンジャーバッグにスキーのウェアと練習後の温泉セット詰め込んで明日の準備だ。

ひのりごと 45

いつもの普通のカレーを作る。
簡単なことだけど、作りながらいつも迷いが生じる。
美味しそうな肉の塊を炒めながら、このままカレーにせず、塩胡椒で、肉感を味わいながらビールを飲んだら美味しいんじゃないだろうか。
タマネギとにんじん、じゃがいも、いたって普通の具を炒めながら、ここにトマトとスパイスを加えて煮込んで、バスク風とか言って食べたら、いい感じなんじゃないだろうか。
そういう葛藤を乗り越えて、普通のルーを加えて出来上がったカレーは、やっぱり美味しい。
今回もおかわりした。

そういう葛藤と一緒で、いつもの普通な東京へ向かう気持ちは、「今はここに行きたい、あれが見たい。」と、目の前にある山やキャンプと楽しいことへと気が向かい、引っ越してから一度も帰京する事無く、一年半が経ってしまった。

そんな私もそろそろと、先月初めて帰京した。
いざ、行くとなると、あれこれ行きたい場所が思い浮かぶ。
銀座のコロッケパン、芝の天丼、有楽町のナポリタンだって食べたい。

会いたい人は…
たくさんいすぎて、3日間の短い時間で、どう予定を立てるべきか分からなくなって、考えるのを途中で止めた。
メッセンジャーなら街を歩けば会えるだろう。

東京滞在2日目。
赤坂から有楽町を目指して歩いていた。
地下鉄に乗らなければ、景色も見られるし、誰かに会えるかもしれない。
途中、溜池交差点の一角にあったビルが、ごっそりと無くなっているのに驚いたり、このビルはそのままなんだなと思ったりしながら、ふらふらすたすた歩いていた。
あるビルの前まで来て、クリオのメッセンジャー、Pさんにメールした。
「どこどこビルなう。」
いつも出入りしていたビルだったから、もしかしたらなと思ってメールすると、「5分で会いに行くぜ。」と返ってきた。次の行き先がこのビルだったらしい。
正面口と通用口のどちらで待つか少し迷ったけど、いつもの通用口で待っていると彼が現れた。
予め、帰京のメールはしていたから、大きな驚きはなかったけど、やっぱりうれしかった。
うれしさのまま、ぺちゃくちゃしゃべっていると、通用口からもう一人メッセンジャーが出てきた。
おーーー!!!
出てきたのは、クリオのふっくんだった。
いつも横浜を走っているはずの彼が、目の前にいて、北国にいるはずのわたしが目の前にいる。それがおかしくて、やっぱりうれしい。
興奮気味にツーショットを撮ってもらった。
肩にしっかりと回してくれたと思っていた手は、後から写真を見返すと、おそるおそる触れるか触れないかのところで止まっていた。それに気づいたのは、夕方に会ったクリオの重鎮、Kちゃんだった。そんな流れすらいつも通りだ。

いつものビルで、いつもの人達と会えるこのうれしさは何だろうか。
メッセンジャーとして走っていた時も、街で同僚や同業他社のメッセンジャーと会う時はいつもうれしくて高揚した。
あまり興奮を表に出さない性格なので、そう見えなかったかもしれないけど、そういう瞬間はいつも心の中はひゃっほーーー!と高ぶっていた。

約束していなくても会える、その偶然がすごくうれしい。
久しぶりに、そんなメッセンジャーのいつもの感覚を味わた。

いつものカレーみたいに、何だかんだ美味しくておかわりしたくなった。またすぐに東京に行きたいなと思った。
でも、この感覚を大切にとっておきたいような気持ちでもいる。

今、テレビで豪雨で東京駅近くが冠水したとニュースが流れていた。映し出される、和田倉門付近の道路。
つい、走るメッセンジャーを探してしまう。

次の東京はいつだろうか。

ひのりごと 再会 

温泉の脱衣所のドライヤーに十円玉を入れた。

なのに動かぬドライヤー。硬貨が詰まっていることに気がついて、持っていた一円玉で上からぐっと押し込むと何事もなかったように動き出した。

髪を乾かし終えて着替えていると、別の人も硬貨を詰まらせ、ドライヤーの前をうろうろしていた。先程の方法を教えるも、硬貨は入っていかなかい。すると、別のおばちゃんが登場し、ガタガタと機械を揺すり始めた。詰まらせた本人は諦めていたが、引かぬおばちゃん。数分後、遂におばちゃんが勝った。

ほっとした空気が脱衣所に流れる中、ボディークリームを塗っていると、鏡越しにうしろにいたおばあさんの姿が目に入ってきた。タオルで作った手作りのブラジャー。胸には大きく「いいタネ」と書かれていた。

一人感嘆していると、見知らぬ方が声をかけてきた。「あなたよく来るの?」と、温泉のスタンプラリーの台紙を譲ってくれた。スタンプを4個貯めると、1回無料で温泉に入れる。どうやら遠方の方なので、なかなか来れないらしい。スタンプは2個貯まっていた。

今日は色々とついている。

 

今、私はこんなドラマティックな脱衣所のある温泉のそばで暮らしている。(市内は温泉だらけ)

一年半前まで、クリオシティのメッセンジャーとして、生まれ育った東京を走っていた。

社長、やな犬さんの言葉を借りると、「雑多なメッセンジャー」の世界に10年近くいた。

そんな経験が功を奏してか、様々な人、仕事、文化、たべものが色濃く入り交じるこの土地で、今のところ楽しく暮らしている。

楽しいと言うと、簡単で単純な言い方かもしれないが、純粋に、興味深くて面白いことだらけだ。

 

はるばる東京から来た私を、人はめずらしがる。

「あんた、こった大変なとこさ何しに来たんず?」

よく、初対面の方にいきなり言われる。

もしかしたら、人によっては面食らうかもしれない。

でも、仕事中に新橋で信号待ちをしていた時に、「おい!ねーちゃん!あんた競輪選手になりなよ!」と、隣にいたおじちゃんに、いきなり言われたことのある身としては、こんなことなんてことないのだ。(因におじちゃんは、私の太ももの太さを生かさないともったいないと言っていた。)エレベーターで乗り合わせたおじちゃんに、「あんた男か?」と聞かれたことだってある。なかなかに雑多な日々だった。

寧ろ、初対面ながらも興味を持って接して下さる方が多い事はとてもありがたい。知る人よりも見知らぬ人が多いこの土地で、新しい出会いのきっかけとなる。

ここに引っ越してきて、初めて経験したアルバイト先のりんご農家の社長から、「順応性が高い」と言われたことがある。どちらかというと保守的で不器用な人間だと思って生きてきたので、素直に嬉しかった。

いつからこうなったのかは分からないけど、きっかけの一つは間違いなくメッセンジャーだと思う。

ありとあらゆる天候のもと、暑いだの寒いだの文句を言いながらもそれを受け入れて走り、変わった職業(メッセンジャー)に興味を持つ世界中の変わった人達と出会い、会社を越えて世代やスタイルの全く違う人達とメッセンジャーのイベントを作り上げ…

雑多なものごとを咀嚼してゆっくりと受け入れていくことを周りの人達から教えてもらった気がする。

特に、雑多なものごとほど、噛めばかむほど、面白みが深まるのだ。

とは言いつつも、頑固で譲れない部分ももちろんある。

 

そんな私が、大好きだったメッセンジャーの世界を離れ、憧れと興味を持っていた北の地に来て1年半。

積み重なる新しい経験と、変わらないメッセンジャーとしての感覚。

この二つが入り交じった私の日々を、もう一度この場所で発信したいと思うようになった。

そんな気持ちを、勇気を出して、社長、やな犬さんに伝えたところ、すんなりと「いいよ。いいね。」と言って下さった。

さすがメッセンジャーだ。

やな犬さんに深く感謝しつつ、この場をお借りして、クリオシティのブログを見て下さっている、

クリオシティのお客様、メッセンジャー、元メッセンジャー、今この土地で新しく出会った人、通りすがりの人に、改めて、私なりの「メッセンジャーな感覚」と「今見ているもの」を伝えていきたいと思う。

戻ってきた「ひのりごと」。

はじめましての方も、以前も読んで下さっていた方も、改めてよろしくお願いします。

 

 

ノリ

1983年、東京生まれ。

高校卒業数年後、地図を眺めること、外にいること、男らしい世界…様々な「好き」が詰まったメッセンジャーになる。

全てのたべもの、のみものをこよなく愛し、食べ呑む日々。

乗り物は自転車も電車も車も全部好き。

現在、高校の頃から憧れていた北国で暮らす。

趣味:登山、写真、民藝、食器集め

好きな人:星野道夫、黒板五郎、河井寛次郎

好きなことば:「驚いている自分に驚いている自分」

ひのりごと 最終回

今朝、電車に乗りながら、大貫妙子さんの歌を聴いていたら、はっとしました。
そして、最後に更新する為に長々と書いた「ひのりごと」の文章を削除しました。
自分がどんな思いで、どんな事を十年やってきたのかをつらつらと書いたのだけど、そんな事よりも、もっとシンプルで、素直に自分の十年を表せる一言が、歌の中にありました。

「ひたむき」
この一言がメッセンジャーになってからの、自分そのものだなぁと思いました。

そもそもメッセンジャーやるような、体力も運動神経もなかったし、
(今もないし)
いきなりヒップホップな挨拶(メッセンジャーがよくやるやつ)できるような軽やかさもなかったし、
(今もないし)
そもそも、顔がメッセンジャーっぽくないし、
そもそも、そもそも…
メッセンジャーなんかやる柄じゃないんですよ。
私。

でも、なぜか直感が働いて、絶対やりたいと思って飛び込んで…
それからは、何を見ても新鮮で、日々の仕事に味わったことのない高揚感があって、周りにいる人たちは本当にかっこよくて…。

だけど、やっぱり、そこにすっと溶け込める器用さは私にはなくて…

だから、ずっとずっと、ひたむきにみんなについていきました。
ひたむきに仕事をしながら、メッセンジャーというものを自分なりに味わって、
かっこいい人達と同じ街を走って、
イベントに関わりながら、その空間に一緒にいて…

すぐにそれっぽくはなれなかったけど、すぐにみんなとベタベタはできなかったけど、ひたむきにメッセンジャーの事を思い続けていました。

一途なんです、私。
そして、しつこい…。

先週の土曜日に、メッセンジャーの大先輩Nさんに、送別会を開いてもらいました。
その会の最後に、Nさんが選んだ十人が挨拶をしてくれました。
同期、後輩、ご近所さん、同僚、友人、そして…メッセンジャーを始めた頃は憧れすぎて怖くて近づけなかった人も。

十人それぞれの言葉は、どれもそれぞれらしく、優しくて、温かいものでした。
うれしくて、うれしくて、こぼさないように大事に聞きました。

そして聞きながら、ひたむきにみんなの事を見つめていた自分の事も、向こうから見ていてくれたんだということに気づきました。

ひたむきに思い続けていたことは、いつの間にか通じ合っていました。
十年間、恋し続けて良かったな。
不器用なりに思い続けて良かったな。

寂しさや、切なさは一つもなくて、
ただ、ただ…
「うれしい。」
それが今の素直な心境です。



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会社のブログの片隅で更新していた「ひのりごと」は今回で終了です。
今まで読んで下さって、ありがとうございました。
この場所、機会を与えて下さった、社長に感謝しています。
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2014年5月22日 のり

ひのりごと 42

先週、仕事中に泣きました。
自分の意思とは裏腹に、突然ボロボロと涙が落ちるのは久しぶり。

届け先の方が、最後になるだろうということで、もう一人の担当者と一緒に出てきて挨拶して下さいました。
その事がなんだかすごくうれしくて…
そう、嬉し泣きです。

お届け先の方は、直接のお客様(依頼主)ではないのですが、頻繁に届けに行く会社もあって、毎日のように顔を会わせる人もいます。
毎回たっぷり話をする訳ではないけれど、いつも寒さ暑さ、雨や雪を労って下さって、一瞬の会話に疲れや緊張をほぐして頂いたことがたくさんありました。

最近、ある年配の人から、
「君の仕事は労働してるって実感が強いでしょ。」と言われました。
その人は戦後何もない時代から自分で全てを考えて、手を動かして、モノゴトを作ってきた人。
そんな人に突然言われたので、「労働」ってなんだろう?ってふと思って、得意のWikipediaで調べると、
労働とは「からだを使って働くこと」と書かれていて…
まぁ、確かにその通りなのでした。

朝から走って、底の底までお腹が空いて、ごはんを食べたら深く深くねむりについて…カラダを使ったという実感は毎日。

そして、そういうカラダの実感と共に、いつも労って下さる人がいて、その事からも労働の実感を得させてもらっていたと思います。

お客様だけではなく、家族や友達も、
「最近雪が降ったけど、大丈夫だった?」
「雨が多いけど風邪ひかないでね。」
「強風の中おつかれさま。」
といつも声をかけてくれて…

きっと、走っているメッセンジャーだけではなく、外から見ても カラダを使っている ということが分かりやすい仕事だからですね。

決してメッセンジャーが他の職業に比べて特別に労働しているとは思いませんが、でもそういう優しさや温かさに触れる機会が多いのは、やっぱり特別なことだと思います。

お客様、お届け先、警備員、友達、街ですれ違うメッセンジャー、たくさんの人からもらったたくさんの温かい言葉、労い。

ストレートにここに書くのは少しこそばゆいですが(きっと読んでいる人も…)、走り終える日を明日に控えて感謝の気持ちでいっぱいです。

ひのりごと 41

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同僚のジャージさんに直しをお願いしていた、メッセンジャーバッグ(ジャージさんが作った)が戻ってきました。
突然。
いつ頼んだのかも、何の直しをお願いしたのかも忘れていたけれど(多分ベルクロのほつれ…)、もう仕事では使わないつもりでいたので、気長に待っていました。

なのに突然手元に届いたバッグ。
「残り数日となった稼働日に使ってくれたら。」と。

メッセンジャーにとって、この上ない餞別です。

しかも、ベルクロ部分の直しだけではなく、ベルトも裏側もフラップのパイピングテープも全部新しくなっていました。
でも陽射しや雨で色褪せたバッグ本体はそのまま。

最近使っていたバッグパックも最高の使い心地だったけど、
長い間一緒に走っていた、この色褪せたバッグと残り数日を過ごすことにしました。

久しぶりだったけど、すぐに身体に馴染んでくれました。

走っている時に、背中にぴったりと沿ったメッセンジャーバッグがある安心感。
体一つで走るよりも守られている感じ。
分かりやすく言うと、エアバッグ。
なのだけど、それだけではない安心。

本当にうれしいできごとでした。
ジャージさん、ありがとう。

追伸
もう知っている方もいると思いますが、
今月いっぱいでクリオシティを退職することになりました。同時に長い間続けてきたメッセンジャーという職業から離れます。
この「ひのりごと」はもう少し続きますので、改めて挨拶させて頂けたらと思います。

ひのりごと 40

ちぇっ!!

帰り道、雨に濡れながら走ってたら、パンクしました。
パンクしました…パンクしました…(エコー)

頭の中では、
「帰ったらすぐにシャワー浴びて、ごはん食べて(今日は冷蔵庫にあれがあるからあれしてこれして白米炊いて)…珈琲淹れて、週末に買ったあのクッキー食べて…」
シュミレーション完璧だったのに!

家までは残り数キロ。
路肩で濡れながらパンク修理する気にもなれず、家まで自転車を押して帰る選択。
と、同時に思い浮かぶのは帰り途中にある数軒の自転車屋さん…。
「パンク修理頼みたい…。女だしメッセンジャーだってばれないんじゃない?何も分からないです♡って顔してニコニコしてれば、ばれないって!だってさ、今から雨で汚れたタイヤ触って手真っ黒になるの嫌じゃん♡」
パンク修理を完全に放棄したい気持ちと、メッセンジャーとしてのプライドが闘うこと数分。

勝ちました、プライドが。(一応まだある。)

だからってモチベーションが上がる訳でもなく、家に帰ってごはん作る気力も無くなり、途中で牛丼屋さんにピットインしました。
憧れの三十代は深津絵里だけどさ、今日は許して。家帰って暗い玄関前で、一人背中丸めてパンク修理するのに、お洒落なカフェなんか寄ってらんないって。だから許して。誰か…。

はぁ…。雨の中のパンクによる心のやさぐれ具合はもう十分伝わったんじゃないでしょうか。
しかし、いくらやさぐれても誰かがやってくれる訳でもないので、家に帰ってすぐにやりましたよ。

玄関前でせっせとタイヤをはめていたら、お隣の奥さんが帰ってきました。
「あら、そんなことできるの!すごいわねぇ。」
「いえいえ、仕事道具なもんで。エヘヘ、エヘヘ。」
さっきまでプライドを捨てようとしてたのに、ちょっと褒められてデレデレ。
それから、近所のスーパーの情報などを数分話して家に入ろうとした奥さん。が、急に振り返って、
「あ、あれあげる。」
そして、段ボールからがさごそと取り出したのはサツマイモ。
「ありがとうございます!」

やったー!やったー!
パンク修理してたら、サツマイモ8本ももらったよー!
やったー!やったー!
モチベーション完全復活!

雨、パンク、プライド、深津絵里、そしてサツマイモ。
めくるめく、業務終了後の私の心なのでした。

キラキラキラ♪(BGMは小田和正)

はぁ〜。では、お風呂に入ります。

ひのりごと 39

一昨日の帰り道、
信号待ちをしていたら、すっと隣に並ぶ人。
同僚の「ちかっぱ」でした。
何でかいつも会うたびに嬉しそうな顔。
その日も、もれなく な顔。

ちかっぱは新しい自転車に乗っていました。
同僚のホッピーから譲り受けた、マットブラックな、マット…なのにちかっぱが乗っていると、つやつやして見えるかっこいい自転車。
いつも黄色やピンクや黄緑(しかも蛍光)なイメージのちかっぱのその日の服装は真っ黒。靴下も。
お…大人ちかっぱ…。

「すごい走りやすい」と嬉しそうに話すちかっぱ。
そしてペダルを見せてくれました。
私があげたペダルでした。
なんか、なんでか、すごくうれしかった。

メッセンジャー同士、いらなくなったパーツを交換したりあげたりはよくあることなのだけど、あまり自転車に周りほど(周りがありすぎ) 興味がない(愛はある)私は、ずっと同じパーツを使い続けて必要に応じて交換する程度なので、譲るパーツなんてそもそもないのです。
でもたまたま、同じペダルを2セットもストックに持っていて、新しい自転車の為にパーツを探していたちかっぱにあげたのでした。

仕事でずっと使ってたから、傷だらけだし、ビンディングのバネは生きてるのか分からなかったけど、
「いい音します!」だって。
よかった。
そう、私がずっと使ってるTimeのペダルは、靴をはめたときにカチャン!外す時にパチン!て、いい音がするのです。
ガチッとはまる感覚も気持ちいいし、この音聞くと仕事してる感が増すのです。

ちょっと話がそれたけど、
ずっと押し入れに入ってたパーツが目の前でメッセンジャーの仕事に使われてるの、すごくすごくうれしいなぁ。
この嬉しさって知ってるつもりになってて、実は知らなかった感覚。

あまりに嬉しくて、何回も「いいね!」と「うれしい!」を言ったから、おばちゃんしつこいってちかっぱに思われたんじゃないかしら。
でもうれしい。