ひのりごと 45

いつもの普通のカレーを作る。
簡単なことだけど、作りながらいつも迷いが生じる。
美味しそうな肉の塊を炒めながら、このままカレーにせず、塩胡椒で、肉感を味わいながらビールを飲んだら美味しいんじゃないだろうか。
タマネギとにんじん、じゃがいも、いたって普通の具を炒めながら、ここにトマトとスパイスを加えて煮込んで、バスク風とか言って食べたら、いい感じなんじゃないだろうか。
そういう葛藤を乗り越えて、普通のルーを加えて出来上がったカレーは、やっぱり美味しい。
今回もおかわりした。

そういう葛藤と一緒で、いつもの普通な東京へ向かう気持ちは、「今はここに行きたい、あれが見たい。」と、目の前にある山やキャンプと楽しいことへと気が向かい、引っ越してから一度も帰京する事無く、一年半が経ってしまった。

そんな私もそろそろと、先月初めて帰京した。
いざ、行くとなると、あれこれ行きたい場所が思い浮かぶ。
銀座のコロッケパン、芝の天丼、有楽町のナポリタンだって食べたい。

会いたい人は…
たくさんいすぎて、3日間の短い時間で、どう予定を立てるべきか分からなくなって、考えるのを途中で止めた。
メッセンジャーなら街を歩けば会えるだろう。

東京滞在2日目。
赤坂から有楽町を目指して歩いていた。
地下鉄に乗らなければ、景色も見られるし、誰かに会えるかもしれない。
途中、溜池交差点の一角にあったビルが、ごっそりと無くなっているのに驚いたり、このビルはそのままなんだなと思ったりしながら、ふらふらすたすた歩いていた。
あるビルの前まで来て、クリオのメッセンジャー、Pさんにメールした。
「どこどこビルなう。」
いつも出入りしていたビルだったから、もしかしたらなと思ってメールすると、「5分で会いに行くぜ。」と返ってきた。次の行き先がこのビルだったらしい。
正面口と通用口のどちらで待つか少し迷ったけど、いつもの通用口で待っていると彼が現れた。
予め、帰京のメールはしていたから、大きな驚きはなかったけど、やっぱりうれしかった。
うれしさのまま、ぺちゃくちゃしゃべっていると、通用口からもう一人メッセンジャーが出てきた。
おーーー!!!
出てきたのは、クリオのふっくんだった。
いつも横浜を走っているはずの彼が、目の前にいて、北国にいるはずのわたしが目の前にいる。それがおかしくて、やっぱりうれしい。
興奮気味にツーショットを撮ってもらった。
肩にしっかりと回してくれたと思っていた手は、後から写真を見返すと、おそるおそる触れるか触れないかのところで止まっていた。それに気づいたのは、夕方に会ったクリオの重鎮、Kちゃんだった。そんな流れすらいつも通りだ。

いつものビルで、いつもの人達と会えるこのうれしさは何だろうか。
メッセンジャーとして走っていた時も、街で同僚や同業他社のメッセンジャーと会う時はいつもうれしくて高揚した。
あまり興奮を表に出さない性格なので、そう見えなかったかもしれないけど、そういう瞬間はいつも心の中はひゃっほーーー!と高ぶっていた。

約束していなくても会える、その偶然がすごくうれしい。
久しぶりに、そんなメッセンジャーのいつもの感覚を味わた。

いつものカレーみたいに、何だかんだ美味しくておかわりしたくなった。またすぐに東京に行きたいなと思った。
でも、この感覚を大切にとっておきたいような気持ちでもいる。

今、テレビで豪雨で東京駅近くが冠水したとニュースが流れていた。映し出される、和田倉門付近の道路。
つい、走るメッセンジャーを探してしまう。

次の東京はいつだろうか。