100%ノンフィクションロードムービー第3弾 「愛しのミドリビンカ」

二つのフレームを両手に抱え、僕は気持ちが落ち着かなかった。大好きだった深緑色のフレームが、パーツが外されて随分と軽くなった姿で傍らにある。もう二度と乗ることはないだろう。まるで遺骨を持って帰る気持ちである。

そして僕の傍らにもうひとつ、とても上品で仕事で使うにはキレイ過ぎるピストバイクが妖しく光っている。

梱包された白フレーム
 

引退もよぎったその翌日にこんなことになるなんて、飛び上がるぐらい嬉しい一方でなにか違和感も感じていた。

長年連れ添った古女房に先立たれて喪に服すつもりでいたのに、すぐに若い愛人が出来てしまったみたいな罪悪感が沸き起こっていた。

青白く輝くフレームはトップチューブも太くなり、塗装はつやつやしている。なんかむっちりピチピチした小娘に見えた。そして使用していた選手のお子さんが貼ったのだろう、ミッフィーのシールまでついているキャピキャピしたやつだ。

シロビンカ…………僕には眩しすぎる。

カラビンカ乗りの友人アケチくんにそのことを話すと、「まあミドリビンカのこどもと思えばいいんじゃないですか?」と気をつかって言ってくれた。

その気持ちはありがたく頂戴したが、よく考えてみると“折れたフレームのこども”って何なんだ?……まったく意味が分からねえ……。

ミドビンカ後ろ姿
 

ミドリビンカで愛用していたリアブレーキ台座は、元同僚のバニヲが開発した“バニーブレーキ”。この世に限定30個しか作られていない。とてもコストがかかっている筈だが、そのうちの一つをスポンサードしてくれた。

一般的なアルミの板で挟むタイプとは全く発想が異なり、シートステイとブリッジの内側から、ロボットがアームを突っ張るようにして固定する。見た目も革命的だが、この台座にはフロント用ブレーキではなく普通のリア用のを取り付けられる厚さになっているのがエライところだ。

田辺さんも毎回「いやぁスゴいねえぇ………えぇ?!(口癖)」と絶賛されていたパーツだ。

シロビンカ後ろ姿
 

シロビンカの後ろ姿。

集合ラグ&つぶしが入ったシートステイというスパルタンな仕様になっている。つまり固くてビシバシ進む。

シートステイの間隔が狭く、これにはバニーブレーキは着けられないので、以前BANKイベントの賞品で頂いていた天婦羅サイクルさんオリジナルの台座を使った。ステンレス(現行商品はアルミ製だそう)の感触が気持ちよく、数種類あるデザインのどれもシンプルでかっこいい。くり抜かれた星形といいミッフィーといい、実にファンシーな仕上がりとなった(笑)。

考えてみると、これらも含め業務で愛用している道具はもらい物ばかりだ。

使い込まれたクロモリのドロップハンドル日東B123は、アキラ師匠から譲り受けた魂のパーツ。
 メッセンジャーバッグは、同僚ジャージ氏提供のUnder11(アンダーイレブン)。 T社のホンマンと街で会うと「形がキレイですよねえ。」といつも言ってくれる。
 携帯ホルダーも、名古屋のwelldone(ウェルダン)イノッチさんに特注したモデルなのだが、結局頂いてしまった。
 道具自体も僕にとってベストな物ばかりだが、スポンサードしてくれた人たちも素敵な男ばかりであることに気づく。

これから、先にフレームが折れるか自分が折れるか分からないが、 まだまだセンチメンタルジャーニーは続くようだ。

木彫りの鳥
 

それから丸一年が経った2016年。年明け二週目の朝のことだった。

僕の腰に激痛が走り、起き上がれなくなった。数日してヨボヨボと病院に行くと、疲労骨折していたことが判明した。
 レントゲン写真を見ると、背骨の一番下のピースと腰骨をつなぐ部分がズレている。フレームでいうと、シートチューブとBBシェルのつなぎ目である。

あ……ミドリビンカと同じ場所ってことか……

医師の説明中だったが、そのことに気づいた僕はうっかり笑ってしまった。

奇しくも、ミドリビンカが折れた日からちょうど一年後の1/16、
うららかな午後のことだった。